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誹謗中傷はなぜなくならないのか

誹謗中傷はなぜなくならないのか
1 はじめに

いじめがなくならないのと同じで人の悪口は、人がいる限りになくならない。
人は弱いもので、他人を蹴落とすことで自分たちの立ち位置を確保したり、自分たちの幸福度を確認したりしようとするからだ。

しかし、インターネット社会の現代において、SNSや掲示板やブログでひとたび誰かの誹謗中傷記事が書かれると、興味本位で多くの人たちの目に留まり、記事は拡散し、誹謗中傷の対象となった被害者は社会的に抹殺され、取り返しのつかない事態に陥る。

そこで、インターネット上の違法・有害情報に対する対応する法令として、平成25年に、プロバイダ責任制限法が制定された。

2 プロバイダ責任制限法について

【プロバイダ責任制限法】の内容は、ざっと以下の通り。
・権利侵害情報に関して、プロバイダが情報の削除を行わった場合・行った場合のそれぞれについて、プロバイダの損害賠償責任の免責要件を規定
権利侵害情報に関して、プロバイダが保有する発信者の情報の開示を請求できる権利を規定。

総務省は、プロバイダ責任制限法を中心とした制度整備を行う一方で、個別の違法・有害情報への対応に関しては、事業者団体や個別のプロバイダによる自主的な取組が行われており、総務省はそれらの取組の支援を行っている。

我々は、インターネットで誹謗中傷された場合、かかるプロバイダ責任制限法やガイドラインに基づき、サイト管理者に対し、

① 違法記事の削除請求
② 違法記事の発信者の情報開示請求
をすることになる。

① は、権利侵害が明らかであれば、サイト管理者が応じてくれるようになってきたが、匿名の心無い加害者は記事が削除されただけでは、痛くもかゆくもない。

3 発信者情報開示請求の手続について

問題は、②である。
そこで、被害者は、ガイドラインに従って、サイト管理者等に対して裁判外で任意で発信者情報開示請求をすることになるが、なかなか認められない。
次に、裁判で発信者情報開示請求をすることになるが、これとて弁護士に頼まざるを得ず、弁護士費用は馬鹿にならず、泣き寝入りする人がほとんどだ。
運よく、弁護士費用を賄うことができたとしても、以下の通り、三段階の煩雑な手続を経なければならない。

① サイト管理者(SNS事業者等)に対する仮処分
仮処分という手続は、普通の裁判では、勝つまでに時間がかかるので、「勝ち」の判決を得たとしても、そのときには、負けた者の財産はどこかへいってしまって何も得られないのでは困るので、裁判をする前に自分の主張がおよそ確からしいという一応の立証をして相手方の財産や地位を保全してもらう手続をいうが、多くの場合、仮処分が認められれば、プロバイダ側は情報発信者のIPアドレス(パソコンや携帯電話等のデバイスの住所)の情報開示に応じてくる。
しかし、そもそも、誹謗中傷がなされるサイトのサーバーが海外を経由していることがままあり、海外のサーバー管理者に対する裁判手続は一筋縄ではいかない。
② 経由プロバイダ等に対する情報者の連絡先の請求
次に、プロバイダから情報発信者のデバイスのIPアドレスが分かったら、そこから、経由プロバイダが判明するので、経由プロバイダに対し、発信者の住所、電話番号等の連絡先を求めます。
しかし、経由プロバイダが発信者のログを残しているのはせいぜい3か月から6か月、発信者に対し一矢報いようと弁護士に相談することをようやく決心したときには既に時遅しということも少なくない。
③ 発信者に対する損害賠償請求等
発信者の連絡先が判明したらはじめて、発信者に対し、損害賠償請求や刑事告訴をすることになる。

以上の次第で、なかなか不埒に誹謗中傷する加害者に一矢報いるのはなかなか容易ではないのもこの手の誹謗中傷がなくならない原因の一つである。

4 今必要なこと

そこで、プロバイダ責任制限法等の関係法令を改正し、適正かつ迅速な発信者情報の開示手続等の民事上の強化が急務となる。
すなわち、同法に定められる発信者情報開示の要件が厳格である(プロバイダが違法性阻却事由の不存在まで判断)。また、前述の通り、アクセスプロバイダ等のアクセスログの保存期間の多くが3~6ヶ月程度等の課題がある。
そのため、同法は、比較法的に見ても被害救済が困難な制度となっている。
そこで、プロバイダ責任制限法等の関係法令については、諸外国の法制等を参考にしつつ、

1 誹謗中傷事件を担当する弁護士費用を賄うための弁護士保険制度の拡充
2 プロバイダによる積極的な任意開示や本案訴訟によらない司法手続等を実現するための発信者情報の開示要件・手続の再検討、
3 司法手続における発信者情報開示請求の要件緩和、
4 発信者情報開示の対象に電話番号を含め発信者特定に必要かつ十分な情報の追加、
5 発信者情報開示に必要かつ十分なアクセスログの保存期間の確保等について、
プロバイダ責任制限法等の関係法令及び運用の見直しを行い、迅速で実効性ある発信者情報の開示手続を実現することが急務である(一部、令和2年6月11日付け自由民主党政務調査会 デジタル社会推進特別委員会による「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の更なる対策に向けて」【提言】より抜粋)。